2060年の大人たち

第1話:保証されない人生を選び続けた人間たち

2060年。
スマート社会の成熟はピークに達していた。

AIは企業運営をサポートし
都市の事故率は過去最低。
行政手続きを忘れることはない。

すべては整っている。
動きは滑らかで
不都合はほとんど起きない。

しかし
社会に入った若い大人たちは言った。

「整っていることが答えではない。」

その先頭に立つのは
八代ミナト――21歳。


彼は新卒として企業に属した

所属先は未来設計企業。

仕事内容は
「最適な人生計画の改善案を作ること」。

しかしミナトは
配属初日に部長へこう言った。

「人生計画は本人が修正しないと意味がありません。」

部長は驚いた。

従来の職務観とは違う。

しかし
ミナトは続けた。

「正解の設計には責任が移りません。
自分で決めた選択に時間を与えて
その人自身で修正する余白が必要です。」

それを聞いた教育担当者は
こう記録した。

「目的の手触りを求める態度」

この言葉が
社内で密かに広がった。


同期の仲間の言葉

同じ世代の社員は言った。

アオイ:

「答えが出る前に進むほうが緊張するけど、
進んだ後に自分が残る時間が好き。」

レン:

「向いてない仕事を続けたら
向いてる形に変わる、そう聞いたんだ。」

ソラ:

「記憶が残る関係をつくりたい。」

それらは
合理化から一番遠い価値観だった。

しかし
その遠さが、彼らの生だった。


社会では別の変化が起き始めていた

行政はこう分析する。

《自己決定行動が集団形成の軸となり始めている》
《企業は意思説明を求められるようになった》
《責任が再び個人に帰属していく現象が発生》

大人たちは困惑する。

なぜなら

責任の所在が固定されなくなるから

だ。

しかしミナトたちの世代は違った。

責任を持つことは
失敗のリスクではなく

選択の証明

なのだ。


ミナトは夜の帰り道に考える

未来を決められることは便利だった。
しかし
決められたものは
自分の痕跡が薄い。

自分で決めれば
不安は増える。

しかし
痕跡が残る。

その事実だけで
人生は意味に変わる。


ミナトの日記(第1話の最後)

未来は完成を受け取る場所ではなく
選んだ軌跡を残す場所だ。

安定は外側がくれる。
意味は歩いた跡にできる。

保証のない時間を進むことは
僕が自分になる唯一の手段だ。


――第1話 完――


次は

第2話:役に立つことを自分の意思で始める世代

です。