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ショッピングモール内の特設エリア。
壁全面液晶映像、人工風、人口調香。
AI音声が明るく響いていた。
「本日もご来場ありがとうございます。
擬似水槽エリアへご案内します。」
水も使用しない。
液晶の下には超音波ミスト。
VRゴーグルで覗き込むと
仮想の金魚が泳ぐ。
子どもは歓声を上げる。
親は安心する。
濡れない。
死なない。
泣かない。
汚れない。
それは“安全な祭り”だった。
しかし主人公・俊真(しゅんま)は
ゴーグルを外して言った。
「これ、違うよね?」
祖父は静かに頷く。
祖父は
本物の屋台で金魚すくいをやっていた世代。
今は許可区域でのみ
実物の金魚を扱える。
祖父は言った。
「お前、昔の金魚すくいに行くか?」
俊真は頷いた。
向かった先は
古い商店街。
そこには
水樽
光を反射する尾
紙の弱さ
水面の冷たさ
そして
逃げる金魚の速さ
俊真は驚く。
俊真
「触れるんだ…」
祖父
「命に触れるって、そういうことだ。」
俊真は
破れたポイを眺める。
ふわふわと残る紙繊維。
沈んでいく。
それが悔しい。
俊真は泣いた。
祖父は笑った。
「掬えることより
掬えないことの方が
大事なんだ。」
俊真は最後に一匹掬った。
その瞬間
紙が破れ
金魚が落ちた。
俊真は泣いた。
それでも祖父は言った。
「それでいい。」
泣いたことが
その夏の証拠になった。
その涙は
「本物に触れた証拠」だった。
そして
俊真はその日から
未来の金魚を追うことになる。
――第1話 完――
次は
第2話:スマホで育つ金魚(2036年)
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