未来の金魚すくい

第4話 金魚を設計する時代(2052年)

2044年からさらに8年。
俊真(しゅんま)は26歳になっていた。

この年――
金魚は「掬うもの」から
ついに


設計する存在


へと変化する。


◆ 新規制度

《生体デザイン参加型金魚生成システム》

政府認証技術企業が発表した。

仕組みはこうだ。

  1. 専用端末で金魚の形状をデザイン

  2. 色・模様・性格的変化傾向を選択

  3. 成長シミュレーションを確認

  4. DNAデータ生成

  5. 3週間後に孵化体が納品

つまり
受け取る前から
未来の姿が決まっている。

偶然は、存在しない。


◆ 新時代の金魚すくいブース

商業施設には
新型の体験ブースが設置された。

看板にはこう書かれている。


「掬うより、創ろう」


そこで体験できるのは
“未来の金魚作り”。

専用タブレットで
子どもたちは絵を描く。

AIがDNA化し、
透明な立体モデルで
将来の姿を見せてくれる。

子ども達は興奮した。

「しっぽを丸くしたい!」
「模様を星型に!」
「青に光を乗せたい!」

親は撮影し
SNSで共有。

瞬間的な喜びは満ちる。

しかし俊真は
隅で静かに見ていた。


◆ 俊真の疑問

俊真は店員に聞いた。

「これ、模様が変わったりするんですか?」

店員は答えた。

「変化しません。
 設計どおりの遺伝子なので
 変異が生じません。」

俊真

「病気とかは?」

店員

「発症率は極めて低いです。
 成長状態も安定です。」

俊真

「個体差は?」

店員

「ありません。」

その瞬間
俊真は理解した。

これは
偶然に触れない命だ。

「選ぶ」でもなく
「出会う」でもなく
「確定した未来を受け取る」命。

それは
安心だ。

しかし
不安がないということは
感情の揺れもない。

強くなる理由
弱くなる理由
成長の痕跡

それらが存在しない。


◆ 父の店

商店街の片隅で
父の店はまだ続いている。

しかし
客は減っている。

父は愚痴らず
不満も言わない。

俊真は聞く。

「もう潮時じゃないの?」

父は笑う。

「命が変わっても
触れる怖さは残るだろ。
その怖さごと渡すのが商売だ。」

俊真は
言葉が出なかった。


◆ 夏、俊真は子どもの補助に入る

子どもが訪れる。

俊真

「どれがいい?」

子ども

「一番弱いやつ。」

俊真

「死ぬかもしれないよ?」

子ども

「でも、助けられたら嬉しい。」

俊真は気づく。

設計された金魚は
助ける余地がない。

偶然で弱るから
助けられる。

助けるから
育ったことになる。

結果ではなく
過程が生まれる。


◆ 展示会での出来事

金魚生成企業主催の大型展示会。

巨大水槽が並び
どの金魚も美しく
同一スペックで
揺れ幅がない。

そこに
父の店から寄贈した
“本物の弱りかけの金魚”が並んだ。

来場者は騒然。

ある女の子が
弱った金魚を見つめ
言った。

「この子、きれい。」

母親は困惑した。


俊真は聞いた。

「どうして?」

少女は言った。

「みんな元気だと区別できないんだもん。
 弱いと、応援できる。」

俊真は泣きそうになった。


◆ 最後の場面

父が店を閉めながら言う。

「完璧なものは、見守られる理由がない。
 助ける余白があるから、人は関係になる。」

俊真は日記に書く。

「設計された命は完成品。
 でも完成品は手を触れなくても成立する。」

そして最後にこう締めた。

「掬うとは
偶然と責任を同時に受け取ること。」


その言葉が
次の8年へ繋がっていく。


――第4話 完――


次は

第5話:水のいらない金魚(2060年)