未来の金魚すくい

第3話 人工生命金魚の登場(2044年)

2036年からさらに8年。
俊真(しゅんま)は18歳になっていた。

金魚は進化した。
ただの観賞魚ではない。


◆ 人工生命金魚《LFG(Life Form Goldfish)》登場

政府技術認定機関による発表。

「遺伝子変異を安定的に制御し
長寿・色変化・体格の安定を可能にしました。」

当時のキャッチコピーはこうだ。


✨死なない金魚
✨色が変わる金魚
✨人格値を記録する金魚


展示会場には
鮮やかな体色の金魚が並んでいた。

赤に青が差す。
金に白が混じる。

まるで光を抱き込む生き物。

人々は感嘆した。

子供は言う。

「ずっと生きてくれる!」
「すごい!」

しかし俊真は
なぜか胸が重かった。


◆ 人工生命の特徴

● 長寿

寿命は概ね30年以上。

●弱らない

病気が極端に少ない。

●色が育つ

持ち主の生活状態で
体色パターンが変化する。

例:

-多忙な人 → 青白い色
-安定した人 → 金色
-人間関係が深い → 赤

つまり
金魚は人間の履歴を映す鏡でもあった。


◆ 俊真は買わなかった

仲間は人工生命金魚を購入する中
俊真は拒否した。

友人は言う。

「死なないなら安心だろ?」

俊真はこう答えた。

「死なない命は、育てている実感がない。」

友人は理解できず笑った。

しかし俊真は
8年前の感覚をまだ覚えていた。

空っぽになったクラウド水槽。
表示不能になった時間。

命に触れたいのに触れられない。

その違和感が残った。


◆ 人工生命金魚のアトラクション

新型の金魚すくいが登場した。

通常のポイでは破れない。

代わりに
触れた人の心拍データや体温から
AIが「相性のよい金魚」を水槽から弾き出す。

つまり
すくうのではなく
選ばれる。

俊真は試した。

手をかざすと――

AI音声が響いた。

《あなたには金色虹鱗型が適正と判定されました》

金魚がせり上がる。

俊真は思った。

(僕が選んだわけじゃない)

そして
受け取らずに帰った。


◆ 父の店に変化が訪れる

父は
人工生命金魚を扱わなかった。

古い水槽
弱る個体
色の揺れ幅
餌の偏り

そのまま扱った。

客は減った。

規制で
許可が厳しくなった。

補助金は打ち切られた。

それでも父は言った。

「弱ったら手当てできる。
無くなったら覚えておける。
それが命だ。」

俊真の胸に
熱いものが溜まった。


◆ 俊真の“拒否”の根源

自宅に戻り
人工生命金魚の資料を開く。

そこには

【寿命30年以上】
【ほぼ死なない】
【精神特性に応じて色が変化】

とある。

俊真は呟く。

「色が変わるのは綺麗だけど
心を映されるのは怖い。」

人工生命は
人間を写す鏡になっていた。

しかし
金魚は元来
ただ泳いでいればよかった。

俊真は思った。

金魚が人間の人生を背負う必要はない。


◆ その年の夏

俊真は
父の店の片隅を借り
金魚すくいの補助をすることにした。

ある男の子が
水面を覗き込み
言った。

「死にそうなやついるね。」

俊真は、

金魚をすくい、
小さな容器に移し
ゆっくり水を足した。

男の子が尋ねる。

「治るの?」

俊真は返す。

「わからない。でも試す。」

男の子はそれを見ていた。

その時間のみ、

命に触れた。

そして
その男の子は言った。

「僕、あの金魚がいい。」

俊真は驚いた。

弱い金魚を選ぶ。

それは
8年前の自分にはできなかったことだ。


◆ 最後の場面


父が言った。

「死ぬかもしれない命を渡すってのは
責任を一緒に渡すってことだ。」

俊真は頷いた。

人工生命は
人生を映す。

しかし
生きてる金魚は
人生を抱えさせる。

その差は大きかった。

俊真は日記を書いた。

「死ぬかもしれない命に触れると
自分の手の温度がわかる。」

その温度だけは
データ化されなかった。


――第3話 完――


次は

第4話:金魚を設計する時代(2052年)