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2032年、世界の就労率はデータの上で「100%」になった。
しかし街は暗かった。
通勤する人はほとんどいない。
仕事はAIによる代理処理となり、
人間が手を動かす必要がなくなった。
その年、主人公は会社の玄関でこう言われた。
「あなたの仕事は登録しました。
今後は来る必要はありません。」
主人公の名は 森江レイ。
34歳、営業職だった。
会社から受け取った通知書にはこう記されていた。
■人間労働の意味
あなたの役割は「価値観提供」となります。
レイは理解不能だった。
「働かないのに給料が出る?
それは成立するのか?」
しかし会社側の回答は一行。
「あなたの“存在”が価値なので。」
帰宅中の電車は空だった。
街に残るのは巨大広告サイネージだけ。
そこにはこう表示された。
《仕事とは、何を生むための行為か》
レイは答えられなかった。
それから3ヶ月。
給料は振り込まれ続けた。
しかし生活は崩れていた。
朝起きる理由がない。
進む方向がない。
ある夜、AIから通知が届く。
【あなたの幸福指数が低下しています】
【依頼:地域プロジェクトへ参加してください】
誘導された先は
小さな地域コミュニティだった。
彼らは企業勤務を失い、
手持ち時間を共有していた。
レイは木製の椅子を組み立てる作業に参加した。
誰かが言った。
「久しぶりだな、人と汗かくの。」
その時、レイは悟った。
仕事とは
賃金ではなく
距離を作る行為だったと。
帰宅後レイは企業システムに
短いメッセージを送る。
私はここで働きます。
お金はいらない。
楽しく過ごせばそれでいい。
AIの返答は正確だった。
【理解しました】
【あなたの選択は価値として記録しました】
そして最後にこう書かれていた。
【人間の幸福は、人間自身が定義します】
レイは思った。
仕事が消えたのではない。
人間が、意味を選びなおしたのだ。
――第1話 完――
第2話へ。
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