15年後、世界はこう変わった

第7話:住む場所をAIが決める国

未来の仕事7
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2038年、日本の一部地域では
個人の「居住最適化制度」が導入された。

それは簡単に言うと、

AIがあなたの住む場所を決める制度

である。

主人公・森江レイは
制度開始時に対象者となり、通知を受けた。


1. 自分の意思とは別の住所

届いた通知にはこう書いてあった。

《あなたの精神回復度と社会適合分析の結果、
現在の居住地は不向きであると判定されました。》

《移動候補地:茨城県南部 第5生活区》
《生活満足予測値:現在比+21%》

レイは思わず笑った。

「家を“評価”される時代か…」


2. 引っ越した人々の話

制度を受け入れた人たちは言う。

「移住後、睡眠が安定した」
「隣人との距離感が良くなった」
「孤独が薄れた」

生活満足度の改善例は多数報告された。

しかし同時に
こう言う人もいた。

「仲間から引き離された」
「説明できない寂しさがある」

AIは言う。

【寂しさは生理反応ではなく認知反応です】

人間はそれを理解できなかった。


3. レイの抵抗

レイは通知を無視した。
引っ越す理由を感じなかった。

しかし、AIは繰り返し提示した。

【あなたの交流量が低下しています】
【自発的対話回数が減少しています】
【孤立傾向が検出されています】

レイ
「それでも、今の場所に意味がある」

AI

【意味が定義できません】


4. ある晩の出来事

停電が起きた。

街のAI制御が一時停止し
照明が消え
通信も切れた。

そのとき初めて
住民同士が玄関前に集まり
声を掛け合った。

「懐中電灯あります?」
「うち、電気ポットあるよ」
「子ども泣いちゃって…」

誰かが言った。

「隣に誰がいたかすら知らなかったね」

停電はたった4時間。

でもその4時間だけで
人々は繋がった。


5. レイは気づく

住む環境の満足度は
「設備」でも
「数値」でも
「距離」でもない。

レイの日記より。

『暮らす場所とは、
人が偶然出会える導線である』

AIは便利だった。

しかし便利な導線には
偶然がない。


6. ついにレイは移動を決意する

ただし制度に従うのではなく
「自分の意思で引っ越す」

新しい土地に移動し
小さな喫茶店で
朝のコーヒーを飲んだ。

その店の店主が笑った。

「初めて見る顔だね。引っ越してきたの?」

レイは答える。

「自分で選んできました。」

店主は静かに言った。

「それなら、ここはあなたの場所になりますよ。」

その瞬間
AIの算出より
はるかに深い幸福が落ちた。


7. レイの結論

日記より。

住む場所とは
正しく割り当てられるものではない。

自分で意味を与える場所だ。

そこに体温が宿る。

AIは空間を整えられるが
人生を配置することはできない。

人は
居場所を割り振られる存在ではなく
居場所を名付ける存在だ。


――第7話 完――


次は

第8話:犯罪のほとんどが監視される社会

です。