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2039年、日本で公式に新制度が発表された。
それは
《選択型家族モデル》
というもので、人は血縁ではなく
-価値観
-生活リズム
-感情安定効果
-人生設計の互換性
-健康指標相互サポート力
を基準にして家族を構成する仕組みとなった。
「血がつながっているから家族」という根拠が
失効したのだ。
1. 家族選定式
主人公・森江レイは
制度説明会を見学した。
会場には大きなホログラフが表示され
人は候補者リストを見ながら選択できる。
家族候補には
-年齢
-性格
-生活習慣
-居住エリア
-人生計画
-心理傾向
などの属性が表示されている。
AIは言う。
「あなたの人生に合う家族モデルを提案します。」
まるで
就職面接
配属組み
住宅リコメンド
のようだった。
2. 家族が“成果型”になっていく
レイは制度利用者に話を聞いた。
ある女性は言う。
「孤独感がほぼなくなりました。
役割が明確で、お互いに助け合える。」
家族メンバー:
・料理担当
・金銭管理担当
・対話担当
・感情サポート担当
機能は完璧だった。
しかしレイは引っかかる。
「家族って、機能単位なのか?」
3. 血がつながっていない家族の幸福
一方で
この制度によって救われた人もいた。
例えば、虐待経験を持つ人
育児環境から離れた人
孤立した高齢者
介護負担で疲れた人
この制度は
“家族に傷つけられた人”を
救ったのだ。
レイも納得した。
これは
悪ではない。
むしろ
未来に必要な形式かもしれない。
4. レイの転機
ある晩、レイは昔のアルバムを開く。
家族で写った写真。
笑っていた瞬間。
泣いていた記念日。
会話が噛み合わない食卓。
怒鳴り合った休日。
それらを思い出し、涙がこぼれた。
それは幸福だったのか
不幸だったのか
本人ですら判断できなかった。
ただ一つ言える。
「選べないから、家族だった」
困難も
衝突も
余白も
感情の行き違いも
全部抱えた状態で
そこに存在していた。
AIの最適化家族とは
構造的には別物だった。
5. 人が「選べない関係」を求め始める
制度導入後
逆に増えた人がいた。
こう言う人たちだ。
「不完全な関係でいたい。」
理由は
・面倒くさいから
・気を使わないから
・縁が切れないから
・逃げられないから
つまり
逃げ道のない関係が
逆に安心だった。
AIは分析した。
【強制性のある絆は心理的帰属意識を形成します】
レイは感じた。
それは
人間のある種の本能だ。
6. 家族とは「変更不能な選択」だったのかもしれない
レイの後輩は言った。
「無償の関係って怖いよね。
でも、それが一番楽になることもある。」
その言葉は刺さった。
未来の人間は
選択できる自由がある。
しかし過去の人間は
選べない絆の中で成長した。
そこには
摩擦
葛藤
諦め
赦し
反発
和解
それらすべてが含まれていた。
AI式家族には
摩擦が発生しづらい。
ならば――
成長も起こらない。
7. レイの結論
日記より。
家族とは
好きな相手でも
嫌いな相手でもなく
人生の途中に存在し続ける他者。
選べないから
深くなる。
避けられないから
理解しようとする。
壊せないから
修復しようとする。
そこに
人間の根があったのだ。
――第9話 完――
次はいよいよ最終話
です。
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