|
2037年、
世界は“愛”のあり方を再設計し始めた。
主人公・森江レイは
あるニュースを見た。
《感情相性最適化プログラム開始》
概要はこうだ。
AIが個人の心理傾向
価値観
生理反応
表現癖
選択傾向
過去の幸福体験
家庭設計志向
それらを解析したうえで
最適な恋愛対象者を提示する。
いわば
「感情の婚活アルゴリズム」である。
1. 正解の恋が提示される
レイは登録してみた。
データが生成され
AIが通知した。
【あなたに最適な相性候補者を抽出しました】
表示されたのは
利き腕、歩行テンポ、食欲傾向など
細かすぎる情報。
だが最も驚いたのは――
《感情反応スムーズ度 92%》
という数値。
さらに
AIは言った。
「あなたが傷つかず、
疲れず、
距離が揺れない関係となる可能性が高いです」
レイは思わず笑った。
完璧すぎて冷たい。
2. 人間は「安全な愛」から始めた
この制度により、
結婚率は上昇した。
喧嘩は減った。
離婚率も低下した。
人々は言った。
「愛に“負担”がなくなった」
しかし
街を歩く人の顔には
なぜか深い喜びがなかった。
表面的には安定だが
体温が欠けていた。
3. 選択肢が増えすぎた結果
ある夜、レイは友人の恋人相談に乗っていた。
友人は淡々と言う。
「私のAIが言ってるの。
この人は私の幸福確率78%なんだって。」
レイ
「高いじゃない」
友人
「でも、別の人が82%。
切り替えるべきかなって。」
レイは震えた。
恋が確率で管理される世界。
数値が正しすぎて、迷う。
不完全なら迷えないのに
正解があると迷ってしまう。
4. 禁断の現象が起きた
AI最適化関係が普及した翌年
逆にこういう人が増えた。
「最適じゃない人を選びたい」
理由はこうだ。
-
不完全だから記憶に残る
-
予測できないほうが会う意味がある
-
合わないのに寄り添うから関係になる
-
理由なく惹かれるものを愛と呼びたい
レイは気づく。
“愛は正しくなくても成立する”
いやむしろ――
正しくないから愛になる。
5. AIが観測できない愛の領域
AIは感情の過去データは解析できる。
しかし未来の「心の震え」は読めなかった。
例えば
突然、会いたくなる
会う理由が言語化できない
距離を置くと泣きたくなる
触れられると安心する
沈黙が落ち着く
AIはこう分析した。
【理由不明の情動反応】
レイは笑った。
それが恋なのだ。
6. レイの実験
レイはAIによる最適化候補の連絡を無視し、
確率の低い候補者と会ってみた。
その人は
歩く速度が合わず
食べるペースも違い
考え方も一致しない。
しかし帰り際に
その人が言った。
「あなたが笑う瞬間だけ、
周りの音が消える感じがします」
その言葉を聞いた瞬間
AIの相性評価の全数値よりも
強く刺さった。
理由はわからない。
それで良いと思った。
7. レイの日記
愛の最適化は、人を傷つかないように設計した。
でも傷つきそうになる距離を
自分で調整することが
本来の恋なのかもしれない。
“選択肢が無限にあると
愛は有限になる”
不完全は
愛の燃料だ。
――第6話 完――
次は
です。
|