育てる子ども、育てられる親

育てる子ども、育てられる親

第1話 生まれた瞬間に価値が決まる世界


2125年。
出生は「投資対象」として扱われていた。

国は赤ん坊一人につき
初期価値=42万円分の「育成権ポイント」 を付与し
企業・自治体・個人がそれを購入できる仕組み。

いわゆる


《子ども先行投資制度》


子どもが育つほど
その価値が上がる。

歩ける
笑う
本を読む
歌う
人を慰める

行動データがAIに登録され
価値が変動する。

子どもは「価値の源」と呼ばれ、
親は「管理者」と呼ばれた。

しかし
この制度が生んだものは
投資ビジネスだけではなかった。


◆ 主人公の澪(れい)

澪は7歳。
価値総額:128万円。

これは高い方だった。

というのも澪は
他人を慰める能力が強く
ストレス緩和指数が高い。

つまり

人に安心を提供できる子ども
=評価ポイント上昇

という仕組み。

逆に

・乱暴
・不登校
・孤立傾向

などがあると価値は下がる。

親は常に子どもの価値を気にした。


◆ ある日、澪は言った

夕飯の後、
母に向かって言う。

「ママは今日、疲れてる。
ぼくのポイントが下がるから、休んでね。」

母は驚いた。

子どもが親を気遣うのではない。

「自分の価値が落ちる」から
休ませるのだ。

母は笑わなかった。


◆ 自己防衛としての思いやり

澪は母にさらに言った。

「今日、僕に優しくして。
僕が優しくすると価値が上がるから。」

母は返せなかった。

優しさは
評価式になっていた。

正しさは
価値を生むためだった。


◆ 学校では…

授業の最初に
先生が言う。

「昨日の行動指数を共有します」

生徒はモニターを見る。

お金のように数字が並ぶ。

上がった者は拍手され
下がった者は励まされる。

励ますことも
評価対象である。

だから
励ましは純粋ではなかった。


◆ 澪の日記

学校帰り
澪は日記にこう書いた。

「ぼくが人に優しくすると
みんな喜ぶ。でも
それはぼくに価値が付くかららしい。」

「本当の優しさって
どれだろう。」

7歳の問いとしては
重すぎた。

しかしこの時代の子どもは
自分の価値の理由を
分析するよう訓練されていた。


◆ 夜

澪は母に聞いた。

「ママは僕を愛してるの?
それとも僕が価値を持っているから?」

母は泣いた。

そして返した。

「澪が生まれたとき、
何もできなかった。でも
愛してたよ。
価値じゃなくて。」

澪は言った。

「じゃあ価値がなくなっても
愛してくれる?」

母は抱きしめた。

その瞬間
澪の評価ポイントは
「落ちた」。

理由:
抱きつきによる感情依存値上昇。

だが母は構わなかった。


◆ 最後に澪は日記を書いた

「ぼくの価値は下がった。
でもママが泣いてたとき
あたたかかった。
あれは数字じゃない気がした。」

価値の下落は損失。
だが澪は利益よりも
何かを得た。

制度は続く。
評価も続く。
価値の変動も続く。

そして――

子どもはこの制度の中で
親を“選ぶ”時代に入っていく。


――第1話 完――


第2話 親に管理される資格

第3話 子どもが親を採用する制度

第4話 逆学習:親が子どもに教わる授業

第5話 子ども投資市場の暴落

第6話 AI養育者の台頭

第7話 子ども互換制度と代理育児契約

第8話 子どもの言語が社会標準になる日

第9話 親採点の日常

第10話 子どもが大人を育てた結末