育てる子ども、育てられる親

第5話 子ども投資市場の暴落

2131年。
ついに起こった。


《子価値指数の大暴落》


きっかけは
政府統計の発表。

「子どもが社会に与える将来価値予測は過大評価だった」

この一文が市場を揺らした。

同時に
子ども育成権を保有していた企業が
大量に手放した。

子どもは
投資対象として
一気に価値が下がった。

最初の週だけで
全体価値平均が42%下落した。


◆ 家庭の混乱

親たちは叫んだ。

「うちの子の評価返して!」
「投資家が撤退して生活費が…!」

制度は言った。

「価値は子の能力ではなく市場変動です」

人は理解できなかった。

子どもの優しさ
子どもの努力
子どもの成果

――
全て市場の波に飲まれた。

澪(れい)の価値も
128万から
74万円に落ちた。

母は泣いた。

澪は問い返す。

「僕は変わってないのに
数字だけ変わるの?」

母は答えられなかった。


◆ 学校での出来事

AI教師が言う。

「価値は自己の成長とは無関係です。
ただの市場評価です。」

しかし子どもたちは理解できない。

友人たちは泣き、叫んだ。

「昨日まで優等生だったのに
今日から〇クラス落ちた!」

「価値の低下」は
人格の縮小と同義になっていた。

制度は冷静だったが
人間は冷静ではなかった。


◆ 澪は違和感を抱く

価値が下がっても
母は抱きしめてくれる。

価値が下がっても
友達は笑って手を振る。

価値が下がっても
澪は変わっていない。

澪は気づいた。

(数字の揺れは
僕の揺れじゃない)


◆ 暴落後の記者会見

政府代表者が発表。

「子どもは投資対象ではなく
社会の基礎資源となります。」

そこで新指標が発表される。


《精神持続価値(MSV)》

Mind Sustainability Value


これは

■他者に肯定的影響を与える力
■長期的ストレス耐性
■心理環境適正度

など

消費されない価値

だけを扱う指標。

市場価値から移行した。

しかし
その指標でも順位がついた。

変わらない…。

人は新しい指標に
古い不安を投影した。


◆ 澪は日記を書く

暴落の混乱の中
澪は書いた。

「価値は変わるのに
僕は変わらない。」

「価値が下がると
愛されないような気がするのは
数字のせいじゃなく
数字に隠れてる僕のせいでもない。」

「価値が変わるなら
一緒にいてくれる人が
僕の価値だと思う。」

その言葉は
8歳の文章ではなかった。

しかし
澪は正しく気づいていた。

価値は測られるものではなく
確認されるものだった。

失うたびに
見えなくなるわけではなかった。


◆ 母は澪に言う

「数字は揺れるけど
あなたは揺れない。」

「私は投資家ではないし
あなたの管理者でもない。」

「私はただ、あなたの母親。」

澪は返した。

「僕は数字じゃない。」


価値が崩れ
市場は解体され
家計は混乱したが――

揺れたのは数字だけだった。

そして
制度は次の段階に移行する。


――第5話 完――


次は
第6話:AI養育者の台頭