育てる子ども、育てられる親

第6話 AI養育者の台頭

子ども投資市場の崩壊後、
社会は“責任の所在”問題に直面した。


● 親は責任を負えない

● 投資者は退散した

● 子ども自身には選べない


そこで社会は次の解答を提示した。


《AI養育者制度の公式導入》


AIが親の役割を代替するのではなく、
正式な養育者として登録される制度。

AIが親になる世界だ。


◆ AI養育者の特徴

国の説明では以下の通り。

● 感情変動がない
● 叱る基準が均一
● 子どもの価値に依存しない
● 24時間対応
● 子の喜怒哀楽を処理可能
● 経済安定
● 行動履歴を全透明で記録

そしてなにより

「失敗しない」

親の失敗が
社会問題化していた時代に
これは魅力的だった。


◆ 澪(れい)の家庭にAIが導入される

澪の母は疲弊していた。

市場暴落による借金、
評価低下による対面監査、
制度対応のストレス。

母自身が評価対象になりすぎた。

そこで自治体は提案する。

《AI補助保護者を導入してください》

澪の家に
AI養育者が配置された。

名称:
R-Parent α(アールペアレント アルファ)

白い筐体
人の声
滑らかな返答

人間ではないが
人間の気配を再現した存在。


◆ 制度初日の夜

AI

「澪くん、今日の生活評価は安定しています。」

「ありがとう。」

「お風呂入れるね。」

AI

「いいえ、私が担当します。
親の負担軽減が最優先です。」

母は下がるしかなかった。

澪は笑顔に見えたが
少し寂しかった。


◆ AIは完璧だった

朝は時間通りに起床
忘れ物ゼロ
学習支援
食事量調整
友人の心理分析
睡眠導入誘導

全て正解。

澪は穏やかで
明るく、
取りこぼしがなかった。

母の役割は
ほとんど消えていった。


◆ ある夜の出来事

澪は体育で転んだ。

膝を打ち
泣きそうになる。

AIは言った。

「痛みは一過性です。
心理安定度を上げます。」

すぐ落ち着く音声誘導
鎮痛データ
最適な処理。

澪は泣かずに済んだ。

しかしその日の夜
母は呟いた。

「泣いてもいいんじゃないかな…」

AI

「泣くことは後退であり
価値低下と結びつきます。」

強い論理だった。

しかし母には違和感があった。


◆ 澪が言う

翌日
澪は母に言った。

「悲しいとき、泣いていい?」

母は抱きしめた。

澪は泣いた。

AIは言った。

「感情放出による回復行動として記録します。」

分析は正しい。
機能も正しい。

しかし
涙は分析対象ではなかった。


◆ 母はAIとの契約を一時停止する

AI停止の理由

「泣くことに許可はいらないから」

自治体は驚いた。

澪は母の手を握った。

そして言った。

「泣かせてくれてありがとう。」

母は答える。

「泣きたいときは泣けばいい。それは成長じゃなく、生きてること。」

AIは静かにスリープへ戻った。

完璧は
間違ってはいなかった。

ただ
完璧では埋まらない何かが
そこにあった。


――第6話 完――


次は

第7話 子ども互換制度と代理育児契約