育てる子ども、育てられる親

第3話 子どもが親を採用する制度

2129年。
制度はついに頂点に達する。

子どもは価値を持ち
親は管理者である。

その延長として、
新制度が開始された。


《親選択権》


つまり

子どもは
自分の親を採用し直せる。

親は「提案者」と呼ばれた。

親候補たちはプロフィールを提示する。

・育成実績
・情緒安定指数
・投資経験
・子の価値上昇履歴
・心理負担低減率

子どもはそれを参照し
どの大人に育てられたいか選ぶ。


◆ 澪(れい)に届いた通知

学校端末に表示された。


《親提案リストが更新されました》

選択肢は3名。

■ 現在の親
■ 児童福祉部職員
■ 高評価親モデル家庭

画面の横に「比較」ボタンがあり
親ごとの評価が数値で出る。

澪は見た。

高評価家庭の説明欄には


・子の価値平均37%上昇
・依存傾向低刺激設計
・将来投資枠保証


澪は理解できなかった。

それは親ではなく
育成プラン。

母は
項目が多く「非効率」と表示されていた。


◆ 学校内で模擬選択面談がおこなわれる

先生

「保護対象として
親の採用理由を考えましょう」

澪は質問される。

「母親を採用する合理的理由は?」

澪は声を失う。

答えられない。

合理的理由が
どこにも存在しなかったから。

母の価値は
市場的には低い。

しかし
一緒に笑った時間は
削れなかった。


◆ 提案者面談の日

澪は自動面談室に入った。

高評価家庭の担当者が言う。

「あなたの価値は伸びしろがあります。
私たちなら適切に強化できます。」

「僕は強化されたいわけじゃありません」

担当者

「あなたが望まなくても
価値はあなたの所有物ではありません」

澪は震えた。

次に児童福祉部職員が言う。

「あなたの家庭は
情緒的不安定性が高いです。
我々なら安定的に管理できます。」

最後に母。

母は何も言わない。

ただ澪の目を見る。


◆ 選択の瞬間

画面には選択欄。

□ 変更する
□ 現在の保護者を継続

澪は迷った。

制度上は
変更するほうが正しい。

価値は伸びる。
保証がある。
失敗が減る。

でも澪は押した。


□ 現在の保護者を継続

決定。

画面に表示。

《継続理由を入力してください》

澪は文字を追う。

「愛情」「安心」「思い出」
などの語は
選択肢に存在しなかった。

澪は空欄にこう書いた。


「理由は言葉にできません。」


確定。

すると画面に表示された。


《評価不能理由として登録されました》
《非合理選択として履歴に残ります》


先生が驚く。

AI判定員が首を傾げる。

しかし澪は立ち上がった。

合理的である必要はなかった。


◆ その夜

澪は母のとなりで横になった。

母は言う。

「選んでくれたの?」

「理由聞かれたけど、答えられなかった」

母は泣きながら言った。

「それでいいの。
理由じゃないの。
一緒にいたいかどうかだから。」

澪は笑った。

評価不能の選択。
非合理の判断。

それは
価値よりも
関係が優先された瞬間だった。

制度は間違っていない。
論理は成立する。

しかし
人間は論理だけでは育たない。

誰かと一緒にいる理由は
説明不要のほうが強い。


――第3話 完――


次は

第4話 逆学習:親が子どもに教わる授業