|
2132年。
社会はさらに高度に合理化された。
子どもの価値変動、
親能力の評価、
AI養育者の配備――。
その結果、
次の問題が浮上した。
「環境が悪いと子の価値が落ちる」
↓
「環境を変えたほうが効率が良い」
そこで政府は提案した。
《子ども互換制度》
簡単に言えば
子どもを一時的に別家庭へ移し
より高度な育成環境で育てる制度
である。
親の権利ではなく
子の価値最大化を目的とした制度。
名目は
「代理育児契約」。
正式契約期間は
最低6ヶ月〜最大18ヶ月。
子は、移される。
そして
育てられる。
◆ 澪(れい)の家にも通知が届く
通知内容:
《澪くんの育成環境評価がA-からBに低下しました。
つきましては代理育児契約の提案があります。》
■候補家庭1
・最適愛着形成設計
・心理疲労ゼロモデル
■候補家庭2
・高度教育指導モデル
・全日程行動管理評価システムあり
■候補家庭3
・低依存家庭デザインモデル
・自己価値創出率が平均41%向上
澪は母を見る。
母は笑えなかった。
◆ 選択説明会
自治体担当者が言う。
「代理家庭は
感情負荷が低く
将来価値が向上します。」
母
「ですが、それはうちの子に合うとは限りません。」
担当者
「合う合わないは重要ではありません。」
「“成果が出る”ことが重要です。」
その言葉は正しかった。
だけど、痛かった。
◆ 代理育児契約の仕組み
契約期間
→半年
契約者家族
→育成責任者として評価対象
子
→価値評価に応じて育成報酬が発生
親
→“一時保留”となり権限が限定される
つまり
子どもは借りられる存在になる
制度的には
合理的だった。
しかし
感覚としては
人間の扱いではない。
◆ 澪の様子
澪は母に言う。
「僕が誰かに育てられたほうが
僕にとって良いの?」
母
「制度上はそうみたい」
澪
「でも僕はママがいい」
母
「ありがとう。でもね…
育てるって何だろうね」
澪は言った。
「一緒にいることじゃないの?」
母の目が揺れた。
◆ 契約説明後の夜
母は書類を保留にした。
期限は3日。
澪は眠れなかった。
母も眠らなかった。
翌朝
母は澪に言った。
「断ろう」
澪は驚いた。
母
「あなたが成長しない可能性があっても
離れないことが
私の育て方だと思う。」
澪は泣いた。
◆ 契約拒否を提出した
自治体担当者は驚いた。
理由欄には母がこう記した。
「育てるとは交換可能性ではなく
不可替性の承認である」
難しい語だった。
しかし意味は一つ。
「替えないことが
育てることになる」
◆ 拒否後に起こること
当然、評価は下がる。
母の評価
→B+からCへ
澪の価値
→再計算で減少
制度的には失敗。
だが澪の生活は変わらなかった。
母は料理をし
澪は手伝い
洗濯し
散歩し
ふざけ
泣いた。
数字は下がったが
関係は残った。
◆ 澪の日記
「育てられる場所は
僕が選ぶんじゃなくて
一緒にいたい人がいる場所。」
「数字より近さが大事。」
誰も否定できない言葉だった。
制度は正しい。
仕組みは正しい。
だが
人は正しいだけでは育たない。
――第7話 完――
次は
第8話 子どもの言語が社会標準になる日
|