育てる子ども、育てられる親

第7話 子ども互換制度と代理育児契約

2132年。
社会はさらに高度に合理化された。

子どもの価値変動、
親能力の評価、
AI養育者の配備――。

その結果、
次の問題が浮上した。

「環境が悪いと子の価値が落ちる」

「環境を変えたほうが効率が良い」

そこで政府は提案した。


《子ども互換制度》


簡単に言えば

子どもを一時的に別家庭へ移し
より高度な育成環境で育てる制度

である。

親の権利ではなく
子の価値最大化を目的とした制度。

名目は
「代理育児契約」。

正式契約期間は
最低6ヶ月〜最大18ヶ月。

子は、移される。

そして
育てられる。


◆ 澪(れい)の家にも通知が届く

通知内容:


《澪くんの育成環境評価がA-からBに低下しました。
つきましては代理育児契約の提案があります。》

■候補家庭1
・最適愛着形成設計
・心理疲労ゼロモデル

■候補家庭2
・高度教育指導モデル
・全日程行動管理評価システムあり

■候補家庭3
・低依存家庭デザインモデル
・自己価値創出率が平均41%向上


澪は母を見る。

母は笑えなかった。


◆ 選択説明会

自治体担当者が言う。

「代理家庭は
感情負荷が低く
将来価値が向上します。」

「ですが、それはうちの子に合うとは限りません。」

担当者

「合う合わないは重要ではありません。」

「“成果が出る”ことが重要です。」

その言葉は正しかった。

だけど、痛かった。


◆ 代理育児契約の仕組み

契約期間
→半年

契約者家族
→育成責任者として評価対象


→価値評価に応じて育成報酬が発生


→“一時保留”となり権限が限定される

つまり


子どもは借りられる存在になる


制度的には
合理的だった。

しかし
感覚としては
人間の扱いではない。


◆ 澪の様子

澪は母に言う。

「僕が誰かに育てられたほうが
僕にとって良いの?」

「制度上はそうみたい」

「でも僕はママがいい」

「ありがとう。でもね…
育てるって何だろうね」

澪は言った。

「一緒にいることじゃないの?」

母の目が揺れた。


◆ 契約説明後の夜

母は書類を保留にした。

期限は3日。

澪は眠れなかった。

母も眠らなかった。


翌朝
母は澪に言った。

「断ろう」

澪は驚いた。

「あなたが成長しない可能性があっても
離れないことが
私の育て方だと思う。」

澪は泣いた。


◆ 契約拒否を提出した

自治体担当者は驚いた。

理由欄には母がこう記した。


「育てるとは交換可能性ではなく
不可替性の承認である」


難しい語だった。

しかし意味は一つ。

「替えないことが
育てることになる」


◆ 拒否後に起こること

当然、評価は下がる。

母の評価
→B+からCへ

澪の価値
→再計算で減少

制度的には失敗。

だが澪の生活は変わらなかった。

母は料理をし
澪は手伝い
洗濯し
散歩し
ふざけ
泣いた。

数字は下がったが
関係は残った。


◆ 澪の日記

「育てられる場所は
僕が選ぶんじゃなくて
一緒にいたい人がいる場所。」

「数字より近さが大事。」

誰も否定できない言葉だった。

制度は正しい。
仕組みは正しい。

だが
人は正しいだけでは育たない。


――第7話 完――


次は

第8話 子どもの言語が社会標準になる日